強制送還中 ガーナ人男性死亡 詳細伝えず「捜査中」
「暴れて」手錠、タオル使用
不法残留のため成田空港から強制送還される途中だったガーナ人男性=当時(45)=が先月下旬、離陸前の航空機内で意識不明になり、搬送先の病院で死亡した。男性が暴れたため、取り押さえるために、タオルと手錠が使われたという。東京入国管理局側の対応や強制送還の決定に、問題はなかったのか。(篠ケ瀬祐司)
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「謝罪も詳しい説明もなく、ただ、彼が死んだことだけ告げられた。東京入国管理局の対応には憤りを覚える」
亡くなったガーナ人、アブバカル・アウドゥ・スラジュさんの妻で、日本人の多々良優子さん(48)は、入管側の対応を、怒りとともに振り返る。
多々良さんが、その後に法務省入国管理局から受けた説明などは、次の通りだ。
3月22日午後、成田発カイロ行きのエジプト航空965便にスラジュさんを乗せようとしたところ、スラジュさんが暴れたため、入管職員が金属手錠とタオルを使って搭乗させようとした。
搭乗後、スラジュさんがぐったりしたのを見つけた航空機乗務員から搭乗を拒否された。
入管職員はスラジュさんを飛行機から降ろし、救命活動をしながら、入管の車で空港内の診療所に搬送したが、スラジュさんは同日午後3時半すぎ、死亡が確認された。
同6時すぎ、入管職員が多々良さんの携帯電話に連絡を試みるが、多々良さんが気付かず、連絡が取れたのは同8時半ごろだった。
スラジュさんの遺体は司法解剖されたものの、同月25日に出た結果は「死因不明」。成田国際空港警察署は26日に、多々良さんに対して「死因をさらに調べている」と説明した。
スラジュさんは1988年5月に短期滞在(15日間)の資格で来日し、一度在留資格を更新。その後は不法残留であるオーバースティ(超過滞在)状態で、国内で働いていた。
多々良さんと知り合ったのは翌89年。2人は90年から東京都内で同居を始めた。2人の間に子どもはいない。書類が整わなかったことが理由で、婚姻届も2006年まで出さなかったが、強制送還時まで夫婦として生活してきた。
多々良さんは「20年といえば私の人生の大半。彼が死んだのは自分が死んだのも同じだ」とスラジュさんを失ったことに胸を痛める。
それ以上に、いまだに亡くなった時の状況の詳しい説明や、死亡したことへの謝罪がないことを憤る。
「法務省や入管はタオルを使ったことは認めても、どう使ったかは説明してくれない。機内でぐったりしていたのに乗務員が気付いたというが、彼の両脇にいた入管職員は何をしていたのか」
多々良さんは強制送還時に暴行があったのではないかとして、国家賠償訴訟も検討中。12日には、千葉市内の千葉県警と千葉地検へ出向いて、厳正な捜査を求めることにしている。
在留許可拒否「総合的に判断」
入管制度見直し急務
摘発と保護「同一機関はムリ」
法務省入国管理局は「こちら特報部」の取材に対し、スラジュさんの強制送還までの経緯や、制圧の状況などについて「警察で捜査中なので、何も話せない」(警備課)と、具体的な状況を明らかにしない。
成田空港国際警察署も同様だ。スラジュさんを押さえるのに、何人の入管職員がかかわったかといった事実関係にも「捜査中」。死因についても「直接死亡につながる原因や病歴は発見できなかった。引き続き調べている」というばかりだ。
送還に使われる予定だったのはエジプト航空の飛行機。同社東京支店も「詳しい状況は分からない」と要領を得ない。
強制送還中のトラブルは過去にはなかったのか。
ある地方の入国管理局元幹部は「今回のことは全く知らないが。経験上、制圧の際に入管職員の力の加減が強くなり、問題化したケースがあったのは事実だ」と明かす。
市民団体などが毎年発刊する「人権年鑑」には、04年11月に、ベトナム女性=当時(29)=が、抵抗できないよう入管職員によって毛布で「す巻き」にされて、ベトナムに送還された事例や、何らかの薬を投与され、意識を失った状態で送還されたとの証言も紹介されている。
市民団体「入管問題調査会」の高橋徹代表は「こうした問題の原因を、入管の体質や職員の資質・責任に求めても解決にならない」と指摘。
「入管施設を第三者の監視下に置いたり、病人や妊婦、裁判で係争中の人は収容しない、または無期限長期収容を禁じるなど、入管施設のシステムの改善が求められる」と提言する。
入管問題に詳しい児玉晃一弁護士は「そもそもスラジュさんには、在留特別許可が出なければおかしかった」と、制圧の経過だけでなく、入管側の強制送還決定そのものに疑問を投げかける。
在留特別許可は、強制送還される外国人を、法務相が個別に許可する制度だ。
在留特別許可のガイドラインでは、日本人との婚姻が成立している場合などを、在留特別許可を出す「積極要素」と位置付けている。だがガイドラインは「基準ではない」(法務省)から、積極要素があっても、許可が出るとは限らない。
入管関係者によると「在留特別許可を出すかどうかを、実質的に判断するのは各地方入管局の首席審査官レベル。入管局長が判断するケースは少ない」という。
これでは判断にばらつきがでないだろうか。
東京入国管理局の元局長、水上洋一郎さんは「1つ1つを総合的に判断しているが、外部からは判断がばらついていると見えるかもしれない。対策として、例えば法律に『日本人配偶者がいる場合には在留特別許可を与える』などと明記する方向で考えてもいいかもしれない」と、基準の明確化の必要性を指摘する。
スラジュさんが亡くなる直前の参院法務委員会で、別の外国人家族の強制送還問題を取り上げた、民主党の今野東議員は「不法残留の取り締まりに成果を上げようとする法務省・入管側が、外国人の保護も行っているところに無理がある」と指摘する。
「法務省・入管から独立した『認定委員会』が難民認定や在留特別許可の判断をすることで、非人道的な措置が減るのではないか」と、制度の見直しが急務だと強調している。
在留特別許可
各種ビザに定められた在留期間を超えて滞在したり、一定の刑に処せられたりして、国外退去処分される外国人に対し、法相が特別に在留を許可する制度。どのような違反をしたかや素行、家族状況などを総合的に判断され、許可の可否が決まる。判断の明文基準がなく、納得できない当事者が訴えを起こすケースがある。
デスクメモ
9日、茨城県牛久市の法務省東日本入国管理センターで、収容中の韓国人の男性(47)がシャワー室で首をつり、死んだ。センターは「保安上の問題」を理由に、詳しい状況を明らかにしない。同センターでは2月にもブラジル人男性(25)が首をつり自殺している。入管の現場で、何かが起きているのでは。(充)
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