子争奪トラブル 国際離婚で続発
一方的な連れ去り 係争泥沼化も
親権ルールのハーグ条約 未加盟
東京・新宿で昨年来、離婚した外国人の元夫らに子供を国外へ連れ去られた日本人女性ら約20人がハーグ条約加盟を求める署名を行った。
同条約は、国際結婚が破綻した夫婦のどちらかが一方的に子供を国外に連れ去った場合、相手国が子供の所在を捜し出し、元の居住国にいったん帰すことを義務付けている。欧米を中心に約80カ国が加盟するが、先進8カ国ではロシアと日本だけが未加盟だ。
このため、署名活動に参加した日本人女性らは外交ルートで子供を連れ戻せない。岐阜県山県市の山田佳代子さん(40)もその1人だ。
▼警察に相談…
「今、子供と一緒にフランクフルトにいる」。昨年8月、山田さんは夫からの電話に言葉を失った。その前日、チェコ人の夫は5歳の長男を「おもちゃを買いに行こう」と連れ出したまま帰らなかった。長男を連れて母国に帰った可能性が高いという。当時、夫とは離婚も含めて将来を話し合っている最中だった。
警察に相談したが「家族と一緒なら事件にはあたらない」と説明された。外務省にも支援を求めたものの有効な手だてはない。相手の許可なく連れ戻せば誘拐罪に問われる可能性もあり、今は携帯電話による夫とのメールのやりとりが唯一の交渉手段だ。
日本と外国で立場が逆転のケースも起きている。昨年9月、米国テネシー州の男性が福岡県警に未成年略取容疑で逮捕された。逮捕容疑は離婚した日本人の元妻が送っていた登校中の息子と娘を車で連れ去った疑い。元妻は事件の約1カ月前、同州の裁判所の決定に反し、男性に無断で子供を連れ日本に帰国していた。男性はその後、釈放され、既に米国に帰った。
日本がこれまで条約加盟に踏み切らなかったのは、国際離婚を想定した子供の捜索などに関する国内法を整備する必要があったことや、離婚後は一方の親だけが親権を持つ「単独親権」主義の民法の影響があるとされる。
▼家族観も影響
制度面だけでなく、日本人の家族観や離婚に対する考え方も問題を難しくしているという指摘も。国際離婚に詳しい棚瀬孝雄弁護士は「日本は離婚イコール縁切りという考え方が根強い。しかし、離婚しても子供は一緒に育てるという意識を定着させることが大事」と指摘。「条約に加盟し、国内法を整えることで円滑な解決が図れるようになる」と強調する。
ただ、日本人女性が相手の家庭内暴力を理由に子供を国外から連れ去った場合などを想定し「邦人保護の観点から加盟すべきでない」という慎重論もある。山田さんは「子供がどうしているかだけが心配。異国で言いたいことも言えないでいるかも」と一日も早い再会を願う。条約加盟をめぐる議論のはざまで、子と引き離された親たちは揺れている。
日本に加盟圧力強まる
政府、法整備など検討
ハーグ条約の正式名称は「国際的な子の奪取の民事面に関するハーグ条約」で、1983年に発効。子供を養育する「監護権」を判断するため、いったん元の環境に戻すことが条約の趣旨だ。
国際離婚の増加に伴い、国内で問題が顕在化する一方、諸外国から日本に対する加盟圧力も強まっている。米国、英国、フランス、カナダの4カ国政府が把握しているだけで日本人による「子の奪取」は約170件あり、子連れ帰国した日本人女性が誘拐罪で指名手配されるケースもある。
昨年10月には米国など8カ国の大使が千葉景子法相に条約加盟を要請。翌月の日米首脳会談でもオバマ大統領が鳩山由紀夫首相に早期加盟を求めた。政府は加盟をめぐりフランスと協議会を設置したほか、国内法整備などの検討を始めている。
